日本の漆は、縄文時代の出土器物にすでに用いられているように、特有の光沢と耐久性・堅牢性のある塗装材料として、長い歴史のなかで様々な技術が磨かれながら発展してきました。古代には、仏具・神具や調度品などの華麗な装飾表現として用いられていました。建造物に施された最古の例は奈良時代の宇佐神宮といわれています。また、平安時代創建の中尊寺金色堂は、内部に施された蒔絵・螺鈿(らでん)などを用いた漆芸術の頂点を極める建造物として知られています。その後も各時代の主要な建造物には欠かすことの出来ない高級な塗装として用いられました。
建造物に漆を塗装するのは、その装飾性に加え厚い塗膜で覆うことで部材を保護する役割があります。漆は15年くらい育ったウルシの木の樹液から採取し、空気中の水分と酸化反応することで硬化します。一度硬化すると紫外線を除いて酸などの影響を受けません。漆塗りの工程は、下地として木地へ麻布を貼り、荒い下地から細かい下地まで何層もの塗(ぬり)、砥ぎを重ねて表面を平滑にします。仕上げには、漆に顔料等を混ぜた黒漆や弁柄漆、朱漆をはじめ、金箔を押す漆箔や、砂子・切箔などで仕上げる蒔絵などの表現があります。